矯正したら、あごや頭が痛くなった?!
再治療開始年齢:22歳
当院での動的治療期間:1年11ヵ月
矯正装置:マルチブラケット装置を用いたスタンダードエッジワイズ法(与五沢エッジワイズシステム)
前医での治療:抜歯矯正(下顎左右の第一小臼歯)・不良な補綴(詰め物)
主訴:3年かけて矯正治療を受けたのにうまく噛めない。かみ合わせが不安定になったせいで顎関節症を発症し、あごや頭の痛みに苦しむようになってしまった。
保定期間:2年 ※保定期間は通常2年~3年(状態により異なります)
通院回数:3~4週間に1回程度、保定期間は4~6か月に1回程度
治療費の総額の目安:保険診療自己負担額(3割負担)の総額約23万円
副作用・リスク:歯根吸収が起こるリスクがあります。矯正治療中は歯磨きしにくい部分ができるため虫歯や歯周病になるリスクが高くなります。外科手術によるリスクがあります。
※記載の治療費は治療当時の金額(税込)です。
矯正治療を受けたのにあごが曲がっていて、顎関節症に!
こちらの患者さんは、顎関節症の治療を受けた歯科医院でかみ合わせの悪さを指摘され、アイウエオ矯正歯科医院を紹介されて相談にいらっしゃいました。
顎関節症というのはその名前の通りあごの関節やその周りの筋肉(咀嚼筋)が正しく機能していないために起こる慢性疾患群の総称で、あごが痛い、あごを動かすとしゃりしゃり音がするなどの他、頭痛や肩こりなどの不定愁訴の原因となっているとも言われています。上の写真は当院に相談にいらっしゃった時のものですが、検査をするまでもなくあごが左側にゆがんでいるのが見てわかります。
またお口の中を見せていただきましたら、歯がばらばらに並んでいるだけでなく、上下の歯が全く咬んでいません。これはさぞお困りだっただろうと、一目で推察されました。
さらに詳しくお話を伺うと、驚くべきことがわかりました。
こちらの女性は21歳の時に「あご関節と頭が痛く、肩が張るようになった」ことを主訴として顎関節症の治療を開始されましたが、顎関節症を発症する前の17歳から20歳までの3年間、また別の歯科医院ですでに矯正治療を受けていたと言うのです。
“正しいかみ合わせ”を作れない不十分な治療がNGとなりました
矯正治療を受けた歯科医院(以後、前医と呼びます)では、乱ぐい歯(デコボコの歯並び/叢生)と受け口(下の歯が上の歯より前に出ている状態/反対咬合)を治療したのだそうです。下顎の左右の第一小臼歯(奥歯から4本目)だけを抜歯して矯正治療を開始して間もなく、あご関節に雑音を感じるようになりました。たまに痛みも感じるようになったことも前医に訴えていましたが、矯正治療が終わった時に「歯の真ん中が合うように、あごをずらして咬むようにしてください」という指示を受けたそうです。
矯正治療はただ歯を並べるだけではなく、正中(歯並びの真ん中)が上下でぴったり合う“正しいかみ合わせ”にするための治療です。歯がまっすぐ並んでも、咬めなくなったりあご関節に痛みを感じるようになってしまっては、矯正治療を行った意味がありません。
こちらの患者さんは矯正治療が終わってからずっとかみ合わせが不安定で、どこで噛んで良いのかわからなくなっていました。不安定なかみ合わせで無理に咬んでいるうちにあご関節が痛み出し、とうとう頭痛や肩こりなどさまざまな不定愁訴が出る“顎関節症”になってしまったのです。顎関節症治療を受けなければ、彼女は一生悪いかみあわせに苦しまなければならなかったかもしれません。
こんなひどい治療をした前医に、同じ歯科医師として憤りすら感じました。
アイウエオ矯正歯科医院での治療
検査
当院で検査したところ、写真で見てもわかるように下あごの骨の左方向へのゆがみがひどく、歯を動かす矯正治療だけでは改善できない状態でした。
また、多くの歯に不良な詰め物(充填物)をされていたこともわかりました。かみ合わせを考慮せずに詰めてあるこの不良補綴物が、あごへの負担を余計に大きくしていたようです。
治療方針
CTなどの精密検査の結果、あごの歪みは、歯の移動だけでは改善できないものと診断したしました。そこで、外科的な矯正治療として、上下のあごを移動する手術とオトガイ(下あごの正面)形成術が必要と説明し、患者さんの同意を得て治療を行いました。
矯正治療を始める前に、かみ合わせを悪くしている原因のひとつである“不良な詰め物”を除去する再治療も、別の一般歯科で受けていただきました。
準備が整ってから、上あごの左右の第一小臼歯(奥歯から4本目)、下あごの右側の第三大臼歯(親知らず)、下あごの左側の第二大臼歯(奥歯)を抜歯して矯正治療を開始しました。
治療結果
1年11ヵ月後、下顎のズレも治り、あごの外見が偏りなくまっすぐになりました。
歯の隙間がなくなり、上下の歯がしっかりとかみ合っています。上下の歯の正中線もほぼ合っています(写真の赤い矢印)。もちろん、あごや頭の痛みも解消しました。顎関節症は継続して治療中ですが、矯正治療後に症状は出なくなってしまったそうです。
治療に不安を感じたら、セカンドオピニオンを!
こちらの患者さんは、前医での治療開始後すぐにあごの異常を訴えていました。しかし前医は何もせず、治療後に「あごがずれているから、かむときに真ん中をずらしなさい」という全く意味のない指示を出しています。
矯正治療を受けるデメリットとして「顎関節症になる」ということを挙げる方もいらっしゃいますが、矯正治療そのものによって起こることではなく、こちらの患者さんが前医から受けたかみ合わせを全く考慮せずに歯を動かしてしまう“不適切な治療”によって引き起こされることなのです。
患者さんが治療を受けている歯科医師がかみ合わせをきちんと考えているかどうかは、患者さんにはなかなかわかりにくいことだと思います。しかし、こちらの患者さんのように治療途中で不安を感じた時は遠慮せずに歯科医師に相談してください。
歯科医師が明確な回答をしてくれなかったり、回答に納得できないときは、別の矯正歯科医院でセカンドオピニオンを受けることをおすすめします。不安を抱えているのに我慢して治療を受け続けることは、決して良いことではありませんから。